名古屋城・本丸御殿
「社会」という科目がありますね。
もう15年も前か。僕は中学生の頃、社会(特に歴史)が好きではありませんでした。卑弥呼もザビエルも信長も、「自分とは全く縁遠い宇宙人」のように思っていたし、歴史上の出来事も単なる記号の羅列のようで、一切の興味が湧きませんでした。暗記してしまえばテストの点が取れてしまうのも、またタチが悪かった。
高校に上がって、社会という科目への無関心はいっそう加速しました。「テスト前に覚えればいいや」と思い、日本史の授業中に他教科の内職をするシマツ。ひどい時は机の下でコソコソとマンガを読んでいました。
しかし、僕が通っていたのは腐っても進学校。平和な時は長くは続きません。後ろの席のちょっとオタク気質のGくんが貸してくれた「ジャングルはいつもハレのちグゥ」を読んでいた、とある晴れた午後の授業中、その事件は起きました。
|日本史の時間
「おいそこ!さっきからずっと何読んでる!!!!」
日本史の林先生の怒号が校舎中に響き渡りました。校舎中というのはオーバーな表現ではなく、授業後に上階の先輩が「さっきめっちゃ怒られてたの誰?ウケんだけど」と野次馬の群れをなしたくらいです。
怒鳴りつけられた瞬間、全身がグオッと震えて飛び上がりそうになった感覚を今でも覚えてます。ビクッ!って擬音が見えそうなくらい。そんなチキンハートのくせにマンガ読んでた自分が悪いのですが、軽く涙目になりました。
「授業中に!」
シャウトから間髪入れず、窓際の僕の席に鬼のような形相で近付いてくる林先生、
「一体!」
必死にマンガを机の中に押し込もうとする僕、
「何を!」
距離3メートル。落ち着け。今ならまだ間に合う。マンガを生物の参考書と入れ替えれば罪は軽く…あ。
「やっとるんだ!」
ゴン。置き勉しすぎてマンガが中に入らない。スッって入るかなと思ったら、ゴンって。壁かな?ってくらい何も通さない僕の机。ミッション失敗。終わった。
そして真横に君臨する林先生。恐る恐る見上げる。めっちゃ手元のマンガ見られてる。ですよね。まさか授業中にマンガ読んでるとは思わなかったのでしょう。そもそも林先生は、超熱血で怒るとコワいことで有名だったので、他教科の内職に挑む生徒すらほとんどいなかったのです。なのに、こともあろうか飛び込んできたのはマンガ。
よほど予想外だったのでしょう。
「何だこれは!」
後ろのGくんは、目の前の愉快すぎる状況に肩を震わせてました。そりゃ「何だこれは」ですよ。ジャングルはいつも晴れのちグゥです…とは言えず、無言で震える僕の手からもぎ取られるマンガ。そのまま、バシーンッ!って頬を叩かれました。全力だった。
見つかってからマンガで叩かれるまで、この間ほんの10秒。
弾かれた勢いで目に飛び込んで来た、窓の外の青空がひたすらに眩しかったです。。
|その後
担任へと預けられた「ジャングルはいつも晴れのちグゥ」を回収しに行くと、「何やっとんねん」と呆れられました。そしてマンガをGに返すと、「いやー、面白いもん見れたわ」と満足顔。
以降、さすがに授業を真面目に受けるようになり、林先生の日本史の話は実はめっちゃ面白いということに気付きました。どうも歴史への「無関心バリア」もいっしょに叩き壊されたらしく。今思い返しても、なんていう現金な男だったのか僕は。
でも、そっから歴史に興味持ち出したのは間違いないんですよね。本当、人生どう転ぶのか分からんもので、その時は自分が数年後に塾で歴史を教えることになるなんて思ってもみませんでした。
信長の没した本能寺の変を、まるで自分の目で見てきたように熱入れて語りながら、「そりゃこんなエキサイトして教えてる時に、誰かがアホみたいな顔してマンガ読んでたら腹立つわ」と納得するのでした。
そうそう、怒られてから2年後、僕が第一志望の大学に受かった時。林先生は別のクラスの担任で、もう接点もなくなっていたのに「おう、第一志望受かったんだってな。おめでとう」とわざわざ一声かけに来てくれました。怒ったこと、気にしてくれてたんかな。いい先生だったなー、というお話。